2026年3月24日に開催されたオフラインイベント「大規模組織における『人事データ基盤』の再定義〜サイボウズの事例に学ぶ、kintoneを活用したデータ主権と柔軟な組織運営〜」のレポートをお届けします。
「Excel管理は限界だが、高額なERPを導入すべきか?」という、成長企業が必ず直面する「人事マスターの壁」をどう乗り越えるべきか。自社製品であるkintoneを使い倒してきたサイボウズが、組織の拡大に伴いどのような決断を下したのか、その舞台裏が明かされました。
「小さい組織ならExcelで対応できる。大企業ならSAPやWorkdayを入れればいい。では、その中間にいる成長企業はどうすればいいのか?」
ファシリテーターの中野仁氏(AnityA)のそんな問いかけからイベントは始まりました。人事データは経営の意思決定に直結する重要な資産ですが、その基盤構築には「柔軟性」と「正確性」のジレンマが常に付きまといます。
本レポートでは、サイボウズ株式会社の人事インフラ担当者とSEが登壇し、1400ものアプリと連携するkintoneベースの人事基盤の現状と、さらなる高度化を目指した「人事データ基盤刷新プロジェクト」の全貌を解説します。
サイボウズの人事データ基盤:kintoneによる「内製」の現在地
サイボウズでは、創業以来の理念である「チームワークあふれる社会を作る」を体現するため、「100人100通りのマッチング」を重視しています。 この多様な人事制度を支えるため、同社はkintoneをベースとした自社開発の人事データ基盤を運用してきました。
人事データ基盤の成熟度
サイボウズは自社の人事データ基盤を5段階の成熟度で定義しており、現在は「レベル3(データ統合)」から「レベル4・5(高度な分析・予測)」への移行期にあります。
| 成熟度レベル | 状態 | サイボウズの現状 |
| レベル1~2 | Excel/スプレッドシート管理 | 卒業済み |
| レベル3 | 人事マスター中心のデータ統合 | 現在の到達地点 |
| レベル4 | 業務効率の自動化・全体最適 | 挑戦中 |
| レベル5 | 考察・洞察・予測への活用 | 目指すべき未来 |
1400アプリが参照する「公開社員名簿」
現在の構成で最も特徴的なのは、人事本部が管理する「社員名簿(公開版)」アプリを、全社の1400ものアプリがリレーション(参照)している点です。
- 人事主導のデータ管理: 情報システム部門ではなく、人事本部が直接アプリの設計・運用を管理(データ主権の確立)。
- 全社的な連携性: 備品管理、アカウント管理、各種アンケートなどが、共通の社員番号をキーにして人事データとリアルタイムに繋がっています。

マトリックス組織と兼務への対応:ノーコードの柔軟性
サイボウズの組織運営は極めて複雑です。多くの社員が複数の部署を兼務しており、さらに「職能」と「プロジェクト」が交差するマトリックス組織を採用しています。
具体的な改善事例
- 兼務割合の可視化: 「A部署50%、B部署30%、C部署20%」といった詳細なコスト分析を可能にするため、人事マスターを自分たちで改修。
- マトリックス評価の実装: エンジニアの評価において、所属部署の部長だけでなく、横軸の職能リーダー(フロントエンドの専門家など)の意見を反映できる仕組みを構築。
これらの複雑な要求に対し、「システムの仕様でできません」と言わずに済むのがノーコードツールによる内製開発の最大のメリットです。
限界と「再定義」:なぜ今、外部システムとのハイブリッドなのか?
順風満帆に見えるkintone人事基盤ですが、組織規模が1000名を超え、数千名規模を見据える中で新たな課題が浮上しました。
直面した3つの壁
- 時系列データ管理の限界: kintoneは最新情報の保持には強いが、過去・未来の「履歴」を統合的に管理・シミュレーションするには、スナップショット(CSV出力)を繰り返す手作業が発生していました。
- 組織図・シミュレーション機能: 数百人規模の人事異動を検討する際、ビジュアルベースでのドラッグ&ドロップ操作やコスト試算を行うには、標準機能では力不足でした。
- 属人化のリスク: 運用の工夫でカバーしてきた部分が、担当者のリテラシーに依存し始めていました。
次世代アーキテクチャへの刷新
これらを解決するため、サイボウズは「ハイブリッド構成」への移行を決断しました。
- 人事コア(履歴・マスター管理): 時系列データ管理に強い外部システム(Yesod)を導入。
- 業務フロント(現場の運用): 引き続きkintoneを活用し、Yesodのデータをkintoneアプリとして参照・更新できる連携機能を活用。

まとめ:これからの人事データ基盤
「ROI(投資対効果)を説明する際、手作業の削減(マイナスをゼロにする)だけでなく、高度な分析による戦略的人事(ゼロをプラスにする)の両面を語ることが、経営層の承認を得る鍵となります」と佐々木良氏は締めくくりました。
人事データ基盤の構築は、単なるツール導入ではありません。それは、自社の組織をどう定義し、どう変化させていくかという「経営戦略そのもの」なのです。
自社の人事データは、将来のAI活用に耐えうる「綺麗な状態」で管理されていますか?まずは社員番号が全システムで一意(ユニーク)になっているか、確認することから始めてみてください。

