【動画】ITリーダーがビジネス感覚を身につけるために役立つ「ビジネスアナリシス」とは何か

 日本企業で今、「ITとビジネスに通じたリーダーの不在」が大きな課題となっています。

 情報処理推進機構(IPA)が発表した「DXの先進企業では、経営、事業、技術の3つに通じ、リーダシップを発揮できる『八咫烏 (やたがらす)人材』が中心となり、DXの方向性や開発推進、事業適用を牽引していた」──という調査結果からも分かる通り、これからの企業のリーダーには「経営、事業、技術」を理解することと、この3つの視点から事業を俯瞰して分析する能力が不可欠です。

 しかし、企業には「ビジネスの専門家」や「ITの専門家」はいても、その両方に通じた人材は極めて少ないのが実情です。それでは、「ITの力を生かしきれていないビジネス施策」や「ビジネスの価値につながらないIT施策」ばかりが生まれてしまうことになりかねず、「企業価値の最大化」が難しくなってしまいます。

 ITリーダーが「ビジネスや経営の視点でIT改革を語る」ためには、何をどのように学べばいいのでしょうか──。

 本記事では、AnityAが2022年1月27日に開催したイベント「ITリーダーがビジネス感覚を身につけるために役立つ『ビジネスアナリシス』とは何か」の模様を動画でご紹介します。

 前編では、ITをビジネスの言葉で語るために欠かせないフレームワーク「ビジネスアナリシス」の普及と啓蒙のための活動を行っているIIBA(International Institute of Business Analysis)日本支部 代表理事の寺嶋一郎氏のプレゼンテーションの模様を動画でご覧いただけます。

目次

最低限必要な基本原理とフレームワークの重要性

寺嶋氏のキャリアは、8ビットマイコンが登場した約40年前、積水化学工業での制御システム開発から始まりました。ハードウェアからOS、アプリケーションに至るまで全てを手作りする環境の中で、寺嶋氏は「コンピュータが動く基本原理」を徹底的に叩き込まれたといいます

「クラウドやAIなど新しい技術が次々と登場しますが、サーバーとは何か、ディープラーニングの原理は何かといった基本原理・原則を理解していないと、それらをどうビジネスに応用できるかは分かりません」と寺嶋氏は語ります

また、生産管理システムの構築においては、IBMの「PICS」という生産管理パッケージの概念に触れ、「考える枠組み(フレームワーク)」の重要性を痛感しました。フレームワークに沿って考えることで、漏れなく体系的にシステムを設計できる経験は、後のビジネスアナリシスへの理解につながっています 。

問題の本質を見抜く力がシステム開発の成否を分ける

MIT(マサチューセッツ工科大学)への留学を経て、当時黎明期だった人工知能(AI)やオブジェクト指向を学んだ寺嶋氏は、帰国後、住宅事業における「部材自動選択システム」の開発に取り組みました

ユニット住宅は自動車以上に部品点数が多く、注文ごとに異なる部材構成を特定するのは熟練の技術が必要でした。この複雑な業務をシステム化する際、ベンダーへの外注は不可能と判断し、内製化を決断します

ここで重要だったのが、「問題の本質を分析すること」です。単にマニュアル通りにプログラムを書くのではなく、「部品を展開するとはどういうことか」「設計者の頭の中はどうなっているのか」という業務の本質まで踏み込んで分析し、オブジェクト指向を用いて論理モデルを構築しました。これがまさに、ビジネスアナリシスの原点となる体験でした 。

「何を作るか」を決める上流工程の重要性

システム開発が失敗する原因の多くは、「ニーズと要件のギャップ」や「コンセプトの曖昧さ」にあります。寺嶋氏は、「**超上流工程(ビジネスアナリシス)**できちんと要件を定義しない限り、下流工程でどんなに優れた実装をしてもシステムは失敗する」と強調します

かつてERP(統合基幹業務システム)導入の際、業務プロセスがブラックボックス化したままシステムを置き換えようとして苦労した経験から、「業務プロセスの可視化」なしに業務改革はできないと悟りました 。

RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入でも同様のことが言えます。非効率な業務プロセスをそのまま自動化しても、真の成果は得られません。まずは業務を見える化し、あるべき姿を描くこと。それがビジネスアナリシスの役割です

経営層に「ITの価値」をどう伝えるか

情報システム部長として本社に戻った寺嶋氏は、IT予算を獲得するために経営陣へのプレゼンテーションに挑みますが、当初は「3文字熟語(IT専門用語)」が通じず、苦戦を強いられました

「IT部門はITのことは詳しいが、ビジネスの視点が欠けている」とみなされていたのです。そこで寺嶋氏は、徹底して**「ビジネスの視点」で語る**ことの重要性を学びました。経営者が関心を持つ課題に対し、ITがどう貢献できるのかを翻訳して伝える能力。これこそが、ITリーダーに求められるコミュニケーションスキルです

また、グループウェアやメールシステムの内製化プロジェクトでは、ユーザーである社員のフィードバックを受けながら短期間で改善を繰り返す手法をとりました。これは、現在でいう「アジャイル開発」の実践そのものであり、業務を理解したエンジニアが開発することの効率性を証明しました 。

DX時代に不可欠な「ビジネスアナリシス(BABOK)」とは

ビジネスアナリシス(BA)とは、「ビジネスとITをつなぐ専門活動」です。その知識体系である「BABOK(Business Analysis Body of Knowledge)」では、BAを以下のように定義しています

「ニーズを定義し、ステークホルダーに価値を提供するソリューションを推奨することにより、エンタープライズに変革(チェンジ)を引き起こすことを可能にする専門活動」

DXの本質は、デジタル技術を使った「企業変革」です。変革を成功させるためには、以下のサイクルを回す必要があります

  • ニーズの把握:何のためにやるのか(目的)を明確にする
  • ソリューションの推奨:ITに限らず、最適な解決策を提示する
  • 価値の提供:ステークホルダーがその変化によってメリットを享受する

米国では13万人以上のビジネスアナリストが活躍していますが、日本ではまだ認知度が低いのが現状です。しかし、DX推進において「ビジネスの可視化」と「要件定義の適正化」は避けて通れません

ITリーダーこそビジネスアナリシスを学べ

最後に寺嶋氏は、これからのITリーダーに向けて次のようにメッセージを送りました。

「ビジネス側の人間がITを学ぶのも良いですが、ITの素養(ロジックやシステム思考)を持った人間がビジネスアナリシスを学び、ビジネス側に歩み寄るほうが、DXリーダーとしては成功しやすいと考えています」

CIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)を目指すITリーダーにとって、ビジネスアナリシスは必須のスキルセットです。現場の業務プロセスを可視化し、経営戦略とIT実装の橋渡し役となることで、日本企業のDXは大きく前進するでしょう

まとめ

本講演では、ITリーダーがビジネス感覚を身につけるための強力な武器として「ビジネスアナリシス」が紹介されました。

  • 問題の本質を見抜く「分析力」
  • 経営層と対話するための「ビジネス視点」
  • 変革を成し遂げるための「標準知識(BABOK)」

これらを学ぶことは、単なるスキルアップにとどまらず、組織全体の競争力を高めることにつながります。まずは、自社の業務プロセスを可視化し、「何のためにシステムを作るのか」という問いに向き合うことから始めてみてはいかがでしょうか

動画インデックス

・IIBA 寺嶋氏のプレゼンテーション「ビジネスとITに通じたDXリーダーになるために欠かせないビジネスアナリシスとは何か」


 -【00:01:57】最低限必要な基本原理や基本原則とは?
 -【00:05:21】考える枠組みを知る〜フレームワークの活用〜
 -【00:07:08】MIT留学でAIを学んだ経験を生かして
 -【00:10:56】ITベンダーに頼れない時は自社で内製するしかない!
 -【00:15:46】優れたアーキテクチャ設計は開発効率を高める
 -【00:19:35】経営陣にITの重要性を理解してもらうために?
 -【00:22:45】内製化は「成果が出るところから」
 -【00:27:45】業務プロセスの可視化ができていないと業務改革はできない
 -【00:29:35】ビジネス・アナリシスの必要性と専門スキルをもつ人材の必要性
 -【00:39:07】ビジネス・アナリシス(BABOK)とは
 -【00:46:08】ビジネス・アナリストに必要な3つのスキルとは
 -【00:46:55】日本でビジネス・アナリシス知られていない理由
 -【00:49:47】なぜDXにビジネス・アナリシスが必要なのか

登壇者プロフィール

TERRANET代表 IIBA日本支部代表理事

寺嶋一郎

1979年に積水化学工業入社。製造現場の制御システム、生産管理システム構築などに従事。1985年マサチューセッツ工科大学留学を経て、人工知能ビジネスを目指した社内ベンチャー、アイザック設立に参画。2000年に積水化学 情報システム部長に就任、IT部門の構造改革やIT基盤の標準化などに取り組む。2016年に定年退職し、IIBA日本支部代表理事、BSIA事務局長、PCNW幹事長などを通じて日本企業のIT部門を支援する活動を行っている。

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