【動画】正しく読めないと崖から落ちる? 「2025年の崖レポートの誤解と真実」をCIO Loungeの友岡氏に聞く(前編)

 2018年9月に経済産業省がリリースした「2025年の崖レポート」(「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」)。IT業界を中心に大きな話題となったこのレポートですが、「内容が誤解されている面がある」と指摘するのが、武闘派CIOとして知られるCIO Lounge友岡賢二氏です。

 2025年の崖レポートは、どのように誤った読み方をされており、本来、経済産業省が伝えようとしているのは何だったのでしょうか──。動画の前編では、友岡氏に正しい読み解き方と、正しい理解に基づくDXの進め方を聞きました。

1. 「2025年の崖レポート」最大の誤解とは

1-1. DXレポートはどのように誤解されているのか

2018年発表のDXレポートは、レガシーシステムの存在がDXを妨げるというメッセージがメインでした。しかし、このメッセージが「レガシーシステムがあるとDXができない」という一点にフォーカスされ、ベンダー側のシステム刷新を推し進める「道具」として利用されてしまったのが「レポート最大の不幸」であると友岡氏は指摘します。

レポートが本来訴えたかったのは、レガシーシステムそのものの問題ではなく、「データ活用ができない場合」にビジネス上の問題が起こるという本質的な課題でした。多くの企業が、システムをアップデートすればDXが実現できるという誤った解釈に囚われてしまったのです。

1-2. レガシーシステム刷新なしにDXは可能

友岡氏がCIO/CDOを務めるフジテックでは、20年選手の基幹システム(レガシーシステム)を維持しつつ、DXを実現した事例を紹介しています。同社は、レガシーなデータベースの情報をクラウド上(Google Maps上)で活用できるようにした「タワーMaps池システム」を開発しました。これは、既存システムを根本から刷新せず、データの見せ方と活用方法を工夫することで、モバイルからも利用可能なモダンなアプリケーションとして機能させた好例です。

この事例は、「レガシーの刷新」ではなく「データ活用ができるかどうか」こそがDXの成否を分ける鍵であることを示唆しています。

2. DXの本質:「変わらないニーズ」と「デジタルツイン」

2-1. 今後10年で「変わらないもの」に焦点を当てよ

DXの戦略を立てる上で、Amazonのジェフ・ベゾス氏の「何が変わるかよりも重要なのは何が変わらないか」という言葉が参考になると友岡氏は提言します。テクノロジー(IT)は激しく変動しますが、顧客の「安いもの」「素早い配達」「品数の豊富さ」といったニーズは安定しています。

戦略は、この時間経過に対して安定している顧客の「変わらないニーズ」に基づいて立てるべきであり、これがDXの教科書であると述べます。

2-2. 顧客ニーズの充足方法(How)を変える革新性

UberやAirbnbといったDXの成功事例は、新しいニーズを生み出したのではなく、昔からあるニーズ(タクシーに乗りたい、ホテルに泊まりたい)に着目しただけです。彼らの革新性は、供給者側の都合による「理不尽な真実」があったところに、ITを使ってそれを解消し、ニーズの充足方法(How)を根本的に変えた点にあります。これこそが、モノを所有せず、リソースを持つ人と必要とする人をマッチングさせる「コトが起こるプラットフォーム」を作るプラットフォーマーの考え方です。

2-3. DXに欠かせない「デジタルツインモデル」

DXの具体的な実装イメージとして「サイバーフィジカルシステム(デジタルツイン)」モデルが紹介されました。これは、IoTなどで現実世界(フィジカル)のデータを収集・デジタル化し(サイバー)、コンピューターがシミュレーションや最適化といった意思決定を行い、その結果を現実世界(フィジカル)の行動として戻すことで、コンピューターの意思決定に基づいて現実社会が動くという仕組みです。

3. DX推進に必要な「両利きの経営」と「コーポレート・トランスフォーメーション」

3-1. 不確実な時代に必要な「両利きの経営」

DXを成功させるには、「両利きの経営」(知の深化知の探索)が不可欠です。AIやRPAといったツールは、「知の深化」(今までのやり方を磨き上げること)を自動化し、人間を解放するための道具に過ぎません。DXの完成とは、この解放されたリソースを「お客様のために何ができるだろうか」という「知の探索」に注力することにあります。

また、ハンコや紙のデジタル化は「情報がデジタル化されたものをどのように活用し、現実社会を変えていくか」というDXの本質的な議論ではありません。

3-2. DXをめぐる議論はERPブームの再燃

現在のDXをめぐる議論は、2000年頃のERPブームにおけるBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)をめぐる議論と本質的に同じであると友岡氏は分析します。当時「ERPを入れたら会社が変わる」と言われたように、現在もRPAやAIが語られますが、これらはいずれも「所詮ツールの話」であり、ツールだけでは何も変わらないという点で、歴史は繰り返していると警鐘を鳴らします。

3-3. DXレポート2は推進者の「武器」になる

2020年発表の「DXレポート2」には、「システムを入れることがDXではない」「組織を変えなければならない」「文化はトップが変わらないと変わらない」というメッセージが含まれています。DX推進担当者にとっては、トップに組織変更を促すための「武器」になると友岡氏は解説します。DXの成果を出すには、システムやツールだけでは不十分であり、「コーポレート・トランスフォーメーション(CX)」が不可欠であるという考え方を示しています。

4. DXが進まない理由とグランドデザインの観点

4-1. 日本でDXが進まない理由と対策

CXを実現し、DXを進めるために日本企業に決定的に不足しているのは「ダイバーシティ」であると友岡氏は語ります。古い体質やカルチャーで多様性がない組織は、成長が止まり、変化が起こりにくくなります。性別、LGBT、外国人などの視点を含めた多様性がないと、組織はフラットになりにくく、DXも難しい。IT担当者は、このダイバーシティの欠如をITと結びつけて経営課題として提起し、組織を変革していくことに注力すべきであると述べました。

4-2. グランドデザインを描くための観点

グランドデザインを描く際は、まず「顧客にとっての真実の瞬間(Zero/First Moment of Truth)」を捉えることが重要です。真実の瞬間とは、「サービスを選ぶ瞬間」と「体験する瞬間」であり、ここに貢献している社内プロセスに注目し、つながらないものは一旦置いておくべきです。

DXとは、単なるUX(手段)の改善ではなく、「データと意思決定」が鍵となります。データがビジネス上の情報に変わり、その情報によって行動や意思決定が迅速に、あるいは自動的に行われるかどうかが本質です。

4-3. ステークホルダーに理解してもらう方法

ビジネス変革には「プロセス設計」「IT設計」「組織設計」の三位一体が必要です。組織を動かすためには、所属する「人間」の「感情」を理解することが不可欠です。IT部門は理性的な「正しさ」を訴えがちですが、人間は必ずしも正論通りには動きません。

DX推進においては、新しい提案に対する人々の感情的な反応を鋭敏に予想し、心の構えを作ることが重要です。感情的な対立が起こりやすい日本では、DX推進に「感情に訴え」「メリットを説く」といった政治的な巻き込みが必要であると指摘し、最悪のケースからスタートすることで精神的なダメージをコントロールすべきだと締めくくりました。

目次

動画インデックス

友岡氏プレゼンテーション:2025年の崖レポートの誤解と真実

 -DXレポートはどのように誤解されているのか【00:01:07】

 -フジテックが推進しているDXとは【00:04:40】

 -「DXレポート2」の内容は、どのように変わったのか【00:07:22】

 -今後10年でビジネスとITを取り巻く環境は何が変わり、何が変わらないのか【00:10:26】

 -顧客ニーズをどのように満たせばいいのか【00:12:17】

 -DXに欠かせない「デジタルツインモデル」とは【00:15:08】

 -不確実な時代に必要な「両利きの経営」とは【00:17:08】

 -DXをめぐる議論は、ERPブームにおけるBPRをめぐる議論の再燃【00:19:40】

CIO Loungeの友岡氏とAnityA中野の対談

 -プレゼンテーションの振り返り【00:21:00】

 -DXを考える際のファーストステップ【00:24:28】

 -IT部門がビジネスに関心を持つべき理由【00:31:15】

 -DXに取り組むことは、ビジネスモデルを作ることと同義【00:40:05】

 -DXレポート2はDXを推進する人の武器になる【00:40:48】

 -日本でDXが進まない理由と対策【00:44:44】

ビジネス課題をITで解決するために

 -グランドデザインを描くための観点とは【00:47:30】

 -どうやってステークホルダーに理解してもらうか【01:11:13】

登壇者プロフィール

NPO法人 CIO Lounge

友岡賢二

企業のDXを加速するため関西の製造業現役CIOやOBが集まって結成したCIO Loungeメンバー。悩みを抱える企業に寄り添い無償ボランティアでコンサルティングを実践中。本業では製造業のCIO/CDOとして、コミュニティでは「武闘派CIO」として多方面で活躍。

株式会社 AnityA(アニティア) 代表取締役 中野仁

国内・外資ベンダーのエンジニアを経て事業会社の情報システム部門へ転職。メーカー、Webサービス企業でシステム部門の立ち上げやシステム刷新に関わる。2015年から海外を含む基幹システムを刷新する「5並列プロジェクト」を率い、1年半でシステム基盤をシンプルに構築し直すプロジェクトを敢行した。2019年10月からラクスルに移籍。また、2018年にはITコンサル会社AnityAを立ち上げ、代表取締役としてシステム企画、導入についてのコンサルティングを中心に活動している。システムに限らない企業の本質的な変化を実現することが信条。

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