【コラム①】コーポレート部門は「経営機能の拡張」であるべき:投資対効果を意識した組織運営(中野仁)

目次

まとめ

  • コーポレート部門は福祉組織ではなく、投資対効果を意識した経営機能の拡張として機能すべき
  • ビジネス経験のないコーポレート担当者は、自社の利益構造や顧客価値を理解できず効果的な判断ができない
  • 過度な「おもてなし対応」は組織の生産性を下げ、まじめに働く社員が不利益を被る構造を生み出す

1. コーポレート部門における根本的な認識のずれ

多くの企業のコーポレート部門で見られる問題の根底には、基本的な前提認識のずれがあります。

まず理解すべき重要な前提として、以下の点が挙げられます。

  • 社員はお客様ではない – お客様とは、サービスに対して適正な対価を支払ってくれる存在です。
  • 企業は社員に投資している – 投資回収と説明責任が発生するのは当然です。
  • 企業は福祉団体ではない – 能力の低い層に合わせると、必要以上のリソースが消費されます。

企業が社員に投資する以上、投資回収と説明責任が発生します。これは決して冷酷な話ではなく、持続可能な組織運営のための当然の考え方です。

2. 「お客様扱い」が生み出す弊害

社員を過度にお客様扱いする文化は、一見すると良い職場環境を作っているように見えます。しかし、以下のような問題を生み出します。

  • まじめに職務を全うする人が割を食う構造の形成
  • フリーライダー的な層の増加
  • 過度な配慮を当然視する風潮の蔓延

なぜなら、組織には必ずといっていいほど、善意につけ込む人材が混在するからです。

優秀な人材を完璧に可視化することは困難ですが、組織にとって有害な人材を特定し、適切に対処することは可能です。これもコーポレート部門の重要な役割の一つといえるでしょう。

3. ビジネス経験の重要性

コーポレート部門において特に問題となるのが、ビジネス経験のない担当者の存在です。こうした人材には以下のような傾向が見られます。

よく見られる問題点

  • 自社のビジネスモデルや顧客への関心が薄い
  • 売上や利益といったお金の流れへの理解不足
  • 経営陣との建設的な対話ができない
  • 交渉や社内政治への対応が苦手
  • 極端な対応に偏りがち(全て受け入れるか門前払いするか)

理想的な姿勢

理想的には、ビジネスサイドから「所詮コストセンターだろ」と言われた際に、「普通に売上・利益くらい立てられますが?」と対等に応答できる気概を持ちたいものです。

4. 投資回収の観点から見た適切なサービス水準

コーポレート部門による社員向けサービスも、投資対効果の観点で考える必要があります。

ビジネスとの類似性

営業担当者が顧客に喜んでもらいたいからという理由だけで赤字になるまで値引きするのと似た構造があります。

  • 顧客満足だけを理由とした赤字対応はビジネスとして成立しません。
  • 他の案件で回収できる戦略的判断でない限り、継続は困難です。
  • 経営陣の明確な指示がある場合は別ですが、そうでなければ適切なバランスが必要です。

同様に、社員が喜ぶからという理由だけで過度なサービスを提供し続けることは、組織の持続可能性を損なう可能性があります。

5. レベルに応じた段階的な成長

完璧を求める必要はありませんが、少しずつ意識を変えるだけでも大きな差が生まれます。

成長段階の目安

  • 30点レベル – 平均的な水準が低い現状では頭一つ抜けることが可能です。
  • 60点レベル – 継続的に実行できれば相応のポジションに就けるでしょう。
  • 80点レベル – 経営幹部を目指すか、自分で事業を立ち上げることも現実的です。

実際のところ、能力不足にもかかわらず運良く経営幹部になった人材は決して少なくありません。適切な能力と実績があれば、十分に上位ポジションを狙えるということです。

6. 組織の健全性を保つ責任

コーポレート部門の重要な役割の一つが、組織の健全性維持です。

問題となる構造

  • 能力の低い層に合わせた運営 → 無駄なプロセスやチェック機能の増加
  • 倫理観に欠けた人材の蓄積 → 組織全体の効率低下
  • 問題のあるマネージャーの放置 → 採用・評価・解雇ができない管理職の存在

必要な対応

本来であれば採用したマネージャーが責任を持つべきですが、人事権を持つ管理職には採用・評価・解雇の能力が不可欠です。

コーポレート部門は以下の困難な役割を担わなければなりません。

  • 足切りラインの設定と実行
  • 問題のあるマネージャーへの対処
  • 組織にとって人的負債となる層の排除

結論

コーポレート部門は単なるサポート機能ではなく、経営機能を拡張する重要な役割を担っています。 そのためには投資対効果を意識し、ビジネス感覚を持った運営が不可欠です。過度な配慮は組織の健全性を損ない、結果としてまじめに働く社員の不利益につながることを理解し、適切なバランスを保った運営を心がけることが重要です。

筆者
中野 仁(Jin Nakano)
エンタープライズIT協会代表理事/AnityA 代表取締役

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