ChatGPTはコーポレートITをどう変えるのか 具体的なユースケースと実装例

 「人類はルビコン川を渡ってしまったのかもしれない」——。こんな声が上がるほど、ChatGPTが私たちの仕事にもたらす影響は大きいと予想されています。

 質問に答えたり、文章の要約や翻訳したりできるのはもちろん、要件を落とし込んでコードを書いたり、レポートを書いたり、複数の視点からアイデアを出したり——といったような、ホワイトカラーの仕事をこなしてしまうことから、これからの仕事のあり方を大きく変えていくことは間違いありません。

 そんなChatGPTはコーポレートIT部門、情報システム部門の仕事をどう変えるのか、どんな向き不向きがあるのか、ChatGPTを織り込んだ上での組織戦略をどう考えればいいのか——。

 4月26日に開催したDarsana・AnityA主催のイベント「ChatGPTの時代に『コーポレートIT部門』はどう生きるべきか——変化をチャンスに変える方法とは」では、ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)を活用したSaaSサービスやコンサルティングサービスを提供するアルプの共同創業者、山下鎮寛氏と、同社R&Dの相野谷直樹氏をゲストに迎え、この問題についてさまざまな視点から探るとともに、これからのコーポレートIT部門のあり方について考えました。

 本記事では、アルプが実際の業務でChatGPTを活用する中で見えてきた具体的なユースケースと実装例を、動画で紹介します。

目次

ChatGPTの正体は「超強力な確率予測マシン」

仕組み:意味を理解しているわけではない?

ChatGPTの中核であるLLM(大規模言語モデル)は、膨大な文章データを学習し、「ある単語の次にどの単語が来る確率が高いか」を予測する技術です 。文字情報をベクトル化(分散表現)して距離を測ることで、構文的な関係を捉えています 。一気に文章を作るのではなく、常に次に続く可能性が高いワードを選択し続けているのが特徴です

得意・不得意の境界線

ChatGPTを使いこなすには、その特性を理解することが不可欠です。

  • 得意なこと: 2021年9月までの学習データに含まれる広範な知識、英語での質問、定説のある科学的知識、100個以上のアイデア出しといった「試行錯誤」の繰り返し 。
  • 苦手なこと: 最新情報(2021年以降)、有料コンテンツの内容、一発での複雑な数学的計算 。計算については、一気に答えを求めず、「順を追って途中計算を含めさせる」ことで精度が向上します 。

AIの真価を引き出す「AIレディー」な組織への4段階

山下氏は、「ChatGPTを入れただけでオペレーションが進化するわけではない」と断言します 。本格的な活用には、自社が「AIレディー」な状況にある必要があります 。

  1. 進化1.0:データの生成(正しいデータが社内に生まれているか)
  2. 進化2.0:データの管理(DWH等で正しい定義のもと管理されているか)
  3. 進化3.0:業務の連携(API等でシステム間が繋がっているか)
  4. 進化4.0:AIによる効率化・価値提供

特に「予測(AI)」を「制御(アクション)」に繋げるためには、予測結果をもとに自動で動く実行ファンクションとの接続が不可欠です


【実例】コーポレートITですぐに試せる5つのユースケース

アルプ社が実際に検証・活用している、即効性の高い活用例を紹介します。

1. ヘルプデスクの自動化(SaaS管理)

「Salesforceでレベニューチャーンレートを集計する方法は?」といった質問に対し、必要なカスタムフィールドやレポート作成手順を即座に回答させることが可能です 。公式ドキュメントが公開されているOSや主要SaaSについては、非常に精度の高い回答が得られます

2. Google Apps Script(GAS)による業務自動化

「スプレッドシートのチェックを入れた行のデータだけでGoogleスライドを生成する」といった複雑なコードも、ChatGPTなら一瞬で書き上げます 。要件を追加すれば何度でも書き直してくれるため、開発コストを劇的に下げられます

3. 経理:入金消し込みのマッピング

「漢字の請求名」と「カナの振込名」の紐付け、振込手数料による差額の検知など、これまで人間が目視で行っていたマッピング作業において非常に高い精度を発揮します

4. 自然言語によるデータ集計・分析

LangChainなどのライブラリを組み合わせることで、「今一番請求額が多い顧客は?」という問いをSQLに変換して自動実行し、結果を返させることが可能です 。計算はクエリ(DB)に、思考はLLMに任せることで、計算ミスを防ぎつつ高度な分析を民主化できます

5. システム導入時の要件定義支援

「物流企業の販売管理システムリプレース」といった前提条件(プロンプト)を与えることで、大項目から詳細ユースケースまで網羅した要件定義書のドラフトを表形式で生成できます


導入の第一歩は「セキュリティ方針」の策定から

エンタープライズ企業がChatGPTを導入する際、避けて通れないのがセキュリティです。山下氏は以下の順序での対応を推奨しています。

  • 利用規約の徹底確認: データの学習利用の有無を必ず確認させる 。
  • データの区分定義: 「一般情報」「社外秘」「機密情報」に分け、それぞれをAIに入力して良い条件を明文化する 。
  • Azure OpenAI Serviceの活用: エンタープライズレベルのSLAとセキュリティが担保された環境でAPIを利用する 。

まとめ:脱皮できない蛇は滅びる

「一度上がった生産性の基準は、資本主義においては二度と下がらない」と山下氏は語ります 。ChatGPTの活用はもはや不可逆なトレンドです。

組織として様子見を決め込むことは、短期的にはリスク回避に見えますが、個人やIT部門にとっては「キャリア価値の潜在的な損失」に繋がりかねません 。先行してユースケースを切り拓く側へ回ることこそが、これからの人材マーケットにおける最大の防衛策となります。

「脱皮できない蛇は滅びる」 ―― この変化をチャンスと捉え、まずは自社のセキュリティポリシー策定から一歩を踏み出してみませんか?

動画インデックス

・アルプ株式会社 山下氏の講演「ChatGPTが変えるコーポレートIT 具体的なユースケースと実装例」
 - 社内でChatGPTを導入/検証したキッカケ【00:06:50】
 - そもそもChatGPT(およびLLM)はどんな仕組みで動いているのか?【00:08:20】
 - ChatGPTが得意としていること、苦手としていること【00:11:47】
 - ChatGPTを試したけど、あんまり賢くないかもと感じたら【00:14:51】
 - ChatGPTを活用するには~WebUIで活用する【00:16:19】
 - ChatGPTを活用するには~APIで活用する【00:17:30】
 - ChatGPTを活用するには~Pluginで活用する【00:18:44】
 - ChatGPTの活用がオペレーションの進化をもたらすわけではない【00:20:07】
 - ChatGPT(広義)を導入するために最低限必要なこと【00:26:05】
 - セキュリティに関する方針を定めて周知する【00:30:36】
 - Azure OpenAI Serviceの概要について【00:35:48】
 - すぐ試せる”ChatGPTのユースケースをご紹介~ヘルプデスク〜【00:39:13】
 - すぐ試せる”ChatGPTのユースケースをご紹介~BPR〜【00:41:08】
 - すぐ試せる”ChatGPTのユースケースをご紹介~経理(入金消し込み)〜【00:43:00】
 - すぐ試せる”ChatGPTのユースケースをご紹介~管理/財務会計〜【00:45:51】
 - すぐ試せる”ChatGPTのユースケースをご紹介~DX/BPR〜【00:47:55】
 - すぐ試せる”ChatGPTのユースケースをご紹介 コーポレートエンジニアリング【00:50:03】
 - 他ChatGPTのユースケースについて【00:53:23】
 - ChatGPTやLLMによって生じる未来【00:54:22】
 - ChatGPTの不可逆性の高さ【00:55:46】
 - あなたの所属する企業に及ぼす影響・あなたに及ぼす影響【00:57:12】

アルプ株式会社

共同創業者

山下鎮寛氏

新卒でヤフー株式会社に入社し、事業開発やマーケットインテリジェンス(国内外の企業/技術のリサーチ部門)等に従事。その後ピクシブ株式会社でプロダクトマネージャーを経て事業開発統括を担当。2018年にアルプ株式会社を共同創業し、販売管理SaaSのScalebaseをプロダクトマネージャーおよびプロダクトオーナーとして立ち上げる。現在はR&D部門で新領域の調査やエンタープライズ向けのデータ基盤構築や分析サービスなどを行っている。

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