【動画】変わることができない組織に「見切りをつける」際の撤退基準は? 「デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー」の市谷氏に聞いてみた

成果に乏しい「裸の王様DX」、現場が疲弊している「大本営発表DX」、終わりない疲弊が続く「眉間に皺寄せてやるDX」、実行体制や方法がない「屏風のトラDX」──。難しいDX現場で全力を尽くそうとは思うものの、討ち死にもしたくない。そんなDX現場のリーダーは、チームや自身が生き残るための生存戦略をどう考えればいいのか──。

 本記事では、AnityAが2022年4月6日に開催したイベント「荒ぶる『勘違いDX四天王』を前にITリーダーはどう動くべきか 『カイゼン・ジャーニー』の著者と考える」の模様を動画でご紹介します。

 前編中編に続く後編では、イベント参加者のみなさまから寄せられた質問に、著書「カイゼン・ジャーニー 」「デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー」で知られるレッドジャーニー代表 市谷聡啓氏と、株式会社AnityA(アニティア)代表取締役社長の中野仁がお答えする模様を動画でご紹介します。

Q&A:難しいDXの現場で生き残っていくために、ITリーダーはどう振る舞えばいいのか

Q1: 「そもそも論」を一緒に考えてもらうためには、どんなふうに働きかけたらいいのでしょうか。弊社は内部のIT部門の意見より外部コンサルの意見を聞くので、コンサルには水を差す役回りをお願いすることが多いです。

■ 自分で考えることの重要性とコンサルの正しい使い方 稚拙であっても自分で考えることがまず大切です 。コンサルの提示する完璧な資料を見ると萎縮してしまいますが、自分たちでたたき台を作成し、コンサルはそれに対するレビューや壁打ちの相手として使うのが正しいアプローチです 。最初のゼロの状態からコンサルに丸投げするのは最も危険な使い方だといえます

■ 組織の停滞を防ぐための仕組み化 クリティカルシンキング(批判的思考)が少なくプロジェクトが行き詰まる組織では、仕組みとして立ち止まって考える習慣が必要です 。具体的には、アジャイルな取り組み方を通じて振り返りやフィードバックを習慣化し、「そもそもこのまま進んで良いのか」と立ち止まって考える仕組みを持つべきです 。

■ 外部コンサルの意見との向き合い方 内部の意見より外部コンサルの意見を聞く傾向については、外部コンサルが正解を持っているわけではないという認識が重要です 。誠実なコンサルタントほど、「あくまで参考程度に聞いてください」と伝えます 。彼らは他の会社で通用した事例や成功体験を持っていますが、貴社の内部の状況は違うからです

外部事例を聞くのは良いことですが、ベンダーからの情報だけでなく、そのプロジェクトの「裏情報」(実際に担当した人、あるいは退職した人などに直接話を聞くなど)を探すべきです 。事例から、うまくいったこと、いかなかったこと、その後の改善を分析し、自社との前提がどこが違うのかを考察した上で、賢く取り入れることが求められます 。

Q2: 変われない組織に見切りをつける(討ち死に回避)際の撤退基準について、どのようにお考えでしょうか。

■ 個人の基準と損切りの視点 若手は特に、「自分がここで得られるものがあるかどうか」という個人の基準で考えて良いでしょう 。40代以降は、「若い世代に残していける組織や現場」があるかという視点も重要になります 。後悔しないためには、「あと少し粘っていれば終わった」というギリギリのラインを自分で決めるのが良いとされます 。

■ 組織に見切りをつける2つのポイント 組織を変革する立場にあるリーダーにとって、個人的な損切りポイントは主に2つあります

  1. ビジネスと経営の寿命: 会社のビジネスモデルの寿命や経営状況を見て、「もう負ける」と確信したとき 。よほどの「メークン」が経営層に来ない限り、個人の努力では挽回が難しくなります 。
  2. 会社への思い入れの喪失: 日本企業における変革者は、報酬が伴わない「割に合わない」立場であることが多いです 。それでも「この会社、この人たちのために頑張ろう」という気持ちになれなくなったときは、撤退ポイントです 。

また、企画・導入・運用をすべて外部に丸投げしようとする会社は、リーダーシップを外注化し、組織を空洞化させているため、変革は高確率でうまくいかないと見て、討ち死にを回避することも一案です

Q3: 市谷さんが考える「日本企業に残された時間」はどのくらいですか?

■ 投資としての時間とビジネスの賞味期限 「残された時間」は、実はもう残されていない可能性もあるという厳しい見方もあります

個人の行動の指針としては、1年経った時点で、取り組みの「ベロシティ(進捗の速さ)」が過去の自社や他社と比較してどれだけ上がったかを冷静に判断することです 。ベロシティは急に2倍になったりはしないため、その積み上げを想像し、現実的な着地点が見えるかどうかを判断基準にします

労働者は「自分の人生の時間」という重要な投資資源を投じているため、その投資に見合うものであるかがポイントです

また、産業や会社のポジショニングによって「寿命」は異なり、自社のビジネスモデルの賞味期限を見極めることが重要です 。DXはビジネスの変革なので、最終的に利益が上がり続けられるのかという視点が不可欠です

Q4: コンサル依存からの脱却はどのような方法で進めたらいいでしょうか。

■ 自分で考えるところから始める 「稚拙でも自分で考えることが大切」という原点に立ち返り、自分たちでできることを少しずつ増やしていくことです 。プロジェクト全体ではなく、一部だけでも自分たちで企画・導入・運用をできるようにします

■ 主導権の確保とメリハリ 外部業者よりうまくできないかもしれない、という不安を乗り越え、自分たちが主体性・主導権を持つことが大切です 。すべてを内部で抱える必要はないため、コアの部分や、会社全体として外部に任せた方が良い部分とのメリハリをつけます 。その上で、外部のプロフェッショナルは「サプリメント的」に利用し、自社の能力を時間をかけて着実に増やしていくべきです

Q5: 変革が可能と思われる組織、もう手遅れな組織の見極めのポイントがあればご教示お願いします。

変革が可能な組織は、質問者が提示した以下の3点が確保されている状態だと考えられます

  1. 年齢、役職を問わず試行錯誤が可能である 。
  2. 健康的で文化的な最低限の年収・労働時間・環境が確保できている 。
  3. 組織衰退後などで上位下達がしやすい状況にあり、変革のためのナラティブが展開しやすい 。

逆にこれらが裏返った組織(例:お兄ちゃんが威張っている、リーダーシップをすべて外部に丸投げし組織が空洞化しているなど)は、変革が難しいと判断できます

Q6: BPRを通じたIT部門の人材育成・人脈構築はDXに対応できる組織力強化につながるのでしょうか?

はい、つながります

BPR(バックオフィス系のプロセス変革)もDX(フロントエンド系のビジネス変革)も、抽象化すれば「変化」という本質は同じです 。BPRができなかった会社はDXもできないし、BPRができた会社はDXでも大きな失敗はしないだろうといえます

企画推進型の人材は、変化を中心としたプロジェクトの中でしか育ちません 。日常のオペレーション中心の仕事をしている人が、いきなりプロジェクト型の問題解決をできるようにはならないため、「何回もバッターボックスに立たせる」こと(変化を中心とするプロジェクトに参画させること)で、組織力は強化されます 。

Q7: 非公式で実施すると「ずっとボランティアで」と言われてしまうのが悩みです。

非公式活動は立ち上げやすい反面、ボランティア化して担当者だけが疲弊するという問題があります 。この問題を乗り越え、公式な承認と予算を取るためには、非公式な活動の「小さな成功(デモなど)」を、社長などのパトロン(権力者)に見せて、公式化のきっかけをつくるのが有効です 。パトロンになりそうな人を見つけて、普段からコミュニケーションを取り、味方につけることがマストです 。

また、非公式活動が「時間と投資の無駄」と見なされ、探索ができない企業カルチャーを克服するためには、新規事業創出プログラムなどの枠組みを作り、探索活動で得られた「学習内容」や「時間・コスト」を可視化して、経営に報告・管理していくべきです 。

多くの企業は失敗したくない、最短で結果を出したいという思考から、DXを「完成品」として外部から買ってこようと考えがちです 。しかし、新規事業やアジャイル開発は、いくつか試して一つ当たれば万々歳の世界観であり、一発必中を狙おうという考え方自体がDXと相性が悪いです 。

Q8: 定量的な数値、ROIやKPIを求められることが多いです。無理筋でも提示していくしかないのでしょうか。

■ 探索フェーズではKGIの探索をゴールとする 探索フェーズでは、最終的なゴールであるKGIを見つけることをゴールとします 。KPIそのものを提示するのではなく、そのKGIを測るための「変数」を見つけることに注力します 。

■ 「狸力」の発揮 無理筋でも提示するしかない場合、それで組織が歪むくらいなら「戦う」べきです 。一方で、老練なCIOなどは、「けむに巻く」というテクニックも使います 。それっぽいことを言って、とりあえず煙幕を張って場を収める能力も必要です 。

■ KPIの継続的な修正 KPIが歪むことで会社がおかしくなることはよくあるため、KPIは事業の解像度やステージによって変わっていくものと捉え、こまめに修正をかけていく必要があります 。また、システムの「負債の完済」(借金の返済)などは、ROIを言っている場合ではなく、返すしかないという割り切りが必要です 。

Q9: 日本企業がすでに焦土と化しているとしたら、どうやって闇市が起こり、復興していくのでしょうか。

資本主義の論理でいけば、焦土化した企業は淘汰され、お金がなくなり外資に支配されて終わるか、スラムになる可能性が高いです

復興するためには、戦後復興のように「今までやってきたことが完全に間違っていた」と決断層も含めて全員が認められる状態になることが条件です 。そうした全員が「やらなければ死ぬ」という危機感を持った状態になれば、話は早くなります 。プライベート・エクイティ(PE)ファンドなどが入って一度リセットされるような、企業再生の過程を経た方が、逆に復活の可能性はあります

Q10: ゴール、目標、ありたい姿がない企業は終わりなのでしょうか。

終わりではないかもしれませんが、関わることはお勧めしません

「オペレーショナル・エクセレンス」(卓越したオペレーション)などで生き残っていく道も考えられます 。しかし、理想とする「ありたい姿」(To Be)がないと、組織内で利害関係がぶつかったときに、利害を調整し続ける泥沼の状態に陥ります 。組織全体のために「ここはマイナスを許容する」といった意思決定ができず、対立を乗り越えることができなくなってしまうからです 。明確なTo Beを想定できない企業とは、個人として関わりたくないというスタンスです 。

Q11: 組織に所属する大半が、組織全体やサービスといったレベルではなく、特定部署を代表してものごとを考える状態からの脱却

この状態を克服するには、根本的に「何をもって北極線とするか」という、全社共通の目標やミッションの浸透が重要になります 。全社的なTo Beやゴールがないと、組織内の行動は部署ごとの部分最適に留まり、それを超えることができないからです 。

Q12: DXブームにおいては、「自分たちが稼ぐことを優先するコンサルタント」もいると思います。それを見分ける方法を教えてください。

■ ソリューションありきで話を進めないか 「このソリューションを入れるとハッピーになります」というように、ソリューションありきで話を進めるコンサルタントは要注意です 。それは単なる製品の代理店や人材派遣業(人を仕込みたいだけ、製品を売り込みたいだけ)の力学が強く働いている可能性が高いです

■ 提案者の経験とフィット感を問う コンサルタントが提案する内容について、「その人がどこまでやったことがあるのか」を問うべきです 。その上で、彼らの経験が、自社の文化や課題にフィットするかどうかが、コンサルタントを選ぶ上で非常に重要なポイントになります 。

Q13: 「自分で考えてコンサルに壁打ち」というサイクルを回すための壁打ち相手のビジネスを提供している会社はありますか。

「自分で考えて考え抜いた後に、コンサルに壁打ちをする」というサイクルを回すこと自体が、変革への「幸せへの道」につながるといえます 。

弊社(AnityAやレッドジャーニー)は、「壁打ちだけ」を提供しているとまでは言いませんが、そのスタンスを強く意識しています 。このサイクルを支援するビジネスは、他にも存在すると思われます

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登壇者プロフィール

レッドジャーニー代表

市谷聡啓

大学卒業後、プログラマーとしてキャリアをスタートする。国内大手SIerでのプロジェクトマネジメント、大規模インターネットサービスのプロデューサーやアジャイル開発の実践を経て独立。現在は日本のデジタルトランスフォーメーションを推進するレッドジャーニーの代表として、大企業や国、地方企業のDX支援に取り組む。新規事業の創出や組織変革などに伴走し、ともにつくり、課題を乗り越え続けている。訳書に「リーン開発の現場」、おもな著書に「カイゼン・ジャーニー」「正しいものを正しくつくる」「チーム・ジャーニー」「いちばんやさしいアジャイル開発の教本」、新著に「デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー」がある。

株式会社 AnityA(アニティア) 代表取締役 中野仁

国内・外資ベンダーのエンジニアを経て事業会社の情報システム部門へ転職。メーカー、Webサービス企業でシステム部門の立ち上げやシステム刷新に関わる。2015年から海外を含む基幹システムを刷新する「5並列プロジェクト」を率い、1年半でシステム基盤をシンプルに構築し直すプロジェクトを敢行した。2019年10月からラクスルに移籍。また、2018年にはITコンサル会社AnityAを立ち上げ、代表取締役としてシステム企画、導入についてのコンサルティングを中心に活動している。システムに限らない企業の本質的な変化を実現することが信条。

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