【動画】荒ぶる「勘違いDX四天王」を前にITリーダーはどう動くべきか 「カイゼン・ジャーニー」の著者、市谷聡啓氏に聞く

 コロナ禍を契機に、企業の間で「DXを推進しよう」という機運が高まっています。

 諸外国に比べてDXの推進で遅れをとっている日本が変わるための大きなチャンスですが、経営陣やプロジェクトに関わるメンバーやが「DXの本質」を理解していなかったり、変革に伴って起こる「組織のコンフリクト」に対応する覚悟がなかったり──といったことから、順調に進んでいる企業が多いとはいえないのが実情です。

 こうした厳しい改革の現場で、ITリーダーはどう動くべきなのでしょうか。自身にも、関わる人にも、企業にもメリットをもたらす「三方よし」の「状態に持って行くためにできることは何なのでしょうか──。

 本記事では、AnityAが2022年4月6日に開催したイベント「荒ぶる『勘違いDX四天王』を前にITリーダーはどう動くべきか 『カイゼン・ジャーニー』の著者と考える」の模様を動画でご紹介します。

 前編では、著書「カイゼン・ジャーニー 」「デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー」で知られ、これまで数々のDXプロジェクトを支援してきたレッドジャーニー代表 市谷聡啓氏のプレゼンテーションをご覧いただけます。

目次

日本のDXは今どうなっているのか?

市谷氏の著書『デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー』の重版が決定したという背景には、依然として多くの企業がDXという大きな課題と向き合っている現状があります 。

顧客・社会の変化と伝統的な企業の課題

顧客や環境の変化は、伝統的な企業に対し、さまざまなレベルで変化を求めています 。しかし、多くの企業では、そうした課題に前向きに取り組もうとしながらも、組織内の分断を乗り越えられず、絶望的な戦いになっていると感じられる状況があります 

日本で重要なのは、組織の中にある色々な分断と向き合っていくことです 。既存の事業をやっていくこと(最適化)に疲弊し、新しい探索や変革ができない企業が多く存在しています 

組織に不足しているもの:探索と適応

多くの組織は、今まで効率化で勝ってきたという自負があります 。しかし、これからは顧客や社会のニーズ自体が変わっていく状況に対応するため、「効率化」だけでなく、「探索」「適応」の活動が不可欠です 。

立ち止まってしまう企業

DXでは、無茶なプランに取り組んだり、失敗を恐れたりして、立ち止まって振り返りもしない企業が多く見られます 。最適化の活動だけを続けていると、どこかで「負けてしまう」ことにつながりかねません 。

DXの本質は、サービスづくりだけでなく、組織の変革と、顧客や社会との関係の中で何ものかを生み出す取り組みにあります 

2つの変革:「進化」と「探索」

日本の組織が今求められているのは、2つの変革を進めることです 

  • 進化(効率化・最適化):既存の事業・サービスをより高解像度なレベルに持っていくこと 。
  • 探索(新規事業・プロダクト):今までやったことのないことに取り組み、不確実性と向き合うこと 。

これらの変革を進めることで、組織の動き方や判断の基準、価値観自体を変えていく必要があります 

荒ぶる「勘違いDX四天王」

DXに取り組む企業で見られる、成功から遠ざかる「勘違いDX四天王」が以下の通りです 。

1.肝心の実行体制や方法がない「屏風のトラDX」

DXの取り組みを掲げても、その後の実行体制や方法が伴わないケースです 。虎の絵を描いても、虎が屏風から飛び出してこないように、成果に繋がらないことを意味します 

2.成果に乏しい「裸の王様DX」

「DXに取り組んでいる」と言っているだけで、実績や成果が乏しい状況です 自己満足で終わり、社会のニーズや市場に合っていない取り組みが続いている状態です 

3.現場が疲弊している「大本営発表DX」

経営層や上層部が方針を打ち出すものの、現場の状況や課題を無視して進められ、結果的に現場が疲弊してしまうDXです 

4.終わりない疲弊が続く「眉間に皺寄せてやるDX」

新しい取り組みに対して、「今までやってきたことが全て正しい」と思い込み、嫌々ながら取り組んでいる状況です 。これでは、探索的な活動が進まず、疲弊が続くことになります 。

段階が必要!DXの4つの段階設計

DXを進めるには、一足飛びにゴールを目指すのではなく、段階を踏んだ設計が必要です 。市谷氏は、DXを以下の4つの段階で捉えることを提案しています 

  1. デジタル活用:既存業務の効率化 。
  2. デジタル化:ビジネスプロセスや組織運営の標準化 。
  3. デジタル・トランスフォーメーション(DX):製品やサービス、ビジネスモデルの変革 。
  4. アジャイルな組織・文化:仮説検証と適応を繰り返せる組織への変革 。

現状、多くの企業がデジタル活用やデジタル化の段階で立ち止まってしまっており、探索的で新しいことへの経験が求められています 


組織の分断を乗り越える方法:アジャイル

DXを推進する中で大きな壁となるのが、組織の分断です 。分断には、「垂直上の分断」と「水平上の分断」があります 

垂直上の分断と水平上の分断を乗り越える

  • 垂直上の分断:階層による分断。経営層と現場、企画部門と開発部門などの間に存在する、意思決定や意識の分断 。
  • 水平上の分断:部門による分断。既存事業部門と新規事業部門など、異なる役割や目的を持つ部門間の分断 。

これらの分断を乗り越えるために、市谷氏は「アジャイルブリゲード」の考え方を提案しています 。これは、仮説検証をアジャイルな考え方で取り組めるように、部門や階層を超えてチームをつくるというものです 。

組織アジャイルで大切なこと

組織全体でアジャイルに取り組む、「組織アジャイル」において最も大切なことは、マインドセットや動き方、考え方を学ぶことです 。

  • 探索と適応:まずは初期の貴重な経験を積み、学んで次の行動を取っていくこと 。
  • 学びの文化試行錯誤や失敗を許容し、「なぜうまくいかなかったか」を学び、振り返る場を持つこと 。
  • 選択肢を広げる:効率化だけでなく、新しい選択肢を広げる活動を行うこと 。

アジャイル開発の手法だけでなく、組織運営においてもアジャイルの考え方を適用し、文化として根付かせていくことが、DX成功の鍵となります 

まとめ

本記事では、市谷聡啓氏のプレゼンテーションから、日本のDXの現状と課題、そしてそれを乗り越えるための具体的な考え方をご紹介しました。

DXを成功させるには、勘違いDX四天王のような落とし穴を避け、「探索」「適応」の活動を組織全体で推進し、垂直上・水平上の分断を乗り越える必要があります 。そのために、アジャイルの考え方を取り入れた組織変革が不可欠です 

市谷氏の著書『デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー』では、こうした組織変革の詳細なプロセスが解説されています。さらに深く学びたい方は、ぜひ関連書籍や続編記事をご覧ください。

動画インデックス

・レッドジャーニー 市谷聡啓氏のプレゼンテーション「デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー 組織のデジタル化から、分断を乗り越えて組織変革にたどりつくまで」

 -【00:04:05】日本のDXはどうなっているのか?
 -【00:05:44】組織に何が不足しているのか?〜探索と適応〜
 -【00:12:02】肝心の実行体制や方法がない「屏風のトラDX」とは
 -【00:13:08】成果に乏しい「裸の王様DX」とは
 -【00:13:57】現場が疲弊している「大本営発表DX」とは
 -【00:15:53】終わりない疲弊が続く「眉間に皺寄せてやるDX」とは
 -【00:18:30】段階が必要!DXの4つの段階設計
 -【00:21:55】垂直上の分断と水平上の分断を乗り越える方法
 -【00:27:36】アジャイルの構造「アジャイル・ハウス」について
 -【00:31:50】組織アジャイルに向かうにあたって最も大切なこと

登壇者プロフィール

レッドジャーニー代表

市谷聡啓

大学卒業後、プログラマーとしてキャリアをスタートする。国内大手SIerでのプロジェクトマネジメント、大規模インターネットサービスのプロデューサーやアジャイル開発の実践を経て独立。現在は日本のデジタルトランスフォーメーションを推進するレッドジャーニーの代表として、大企業や国、地方企業のDX支援に取り組む。新規事業の創出や組織変革などに伴走し、ともにつくり、課題を乗り越え続けている。訳書に「リーン開発の現場」、おもな著書に「カイゼン・ジャーニー」「正しいものを正しくつくる」「チーム・ジャーニー」「いちばんやさしいアジャイル開発の教本」、新著に「デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー」がある。

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