情シスが「ヘルプデスク業務で消耗しない」仕組みのつくり方——カギは「脱・おもてなし」

 聞けばなんでも教えてくれる、懇切丁寧なヘルプデスク。一見、すばらしい取り組みに見えますが、本当にそうでしょうか? 聞いてばかりの「ITに受け身な社員」が、忙しい情報システム部門の時間を奪っていませんか? その結果、いつまでたっても導入したサービスやソフトウェアが使われないままになっていませんか?

 IT実務者のためのメディア「Darsana」では、「おもてなしヘルプデスク」にメスを入れ、社員も情シスも企業も成長できるITサポートのあり方を考えるイベントを開催しました。

 テーマは「デジタルアダプション」。導入したソフトウェアを社員が自立的に使える環境を用意し、利用者の活用状況を可視化したデータをもとに改善を重ねて、社員の生産性を高める取り組みをスタートさせた、東急コミュニティ 情報システム部門の柏崎正彦氏に話をお聞きしました。

 柏崎氏は社員がツールの操作に迷わないよう、レベルごと、部門ごとに最適化したガイド機能の提供で社員の自立したツール活用をうながすとともに、ツールの利用状況を可視化することでサポートの改善やライセンスの見直し、さらには、ITを自立的に使いこなしている社員が評価される組織の構築を図ろうとしています。

 本記事では、柏崎氏のプレゼンテーションの模様を動画でご紹介します(テキスト記事の前編後編も公開中です)。

目次

1人情シスから外資系ITを経て東急不動産HDへ。柏崎氏が挑むITサービスマネジメントの再構築

クラウド化の変革期を最前線で経験したキャリア

東急不動産ホールディングスの柏崎氏は、フロアに30〜40人ほどしかいない小規模な企業での「1人情シス」兼ITツールのプリセールスというユニークなキャリアからIT業界をスタートしました 。その後、外資系IT企業へ移籍し、オンプレミスからクラウド(ServiceNowなど)への移行期を最前線で経験 。IT組織の構築やマネジメントの手法を深く学んだ後、現在の日本の組織へと変革のノウハウを還流させています

現在はグループ全体でのITサービスマネジメント再構築を主導しており、ServiceNowを用いたチケットシステムの導入や、「電話の14回線を2回線にまで削減する」といったドラスティックな仕組みの刷新を次々と実行しています

170台のファイルサーバーをBoxへ完全移行した後に見えた新たな課題

柏崎氏が主導した大きなプロジェクトの1つが、社内にあった170台(計200テラバイト)のファイルサーバーを2年半かけて全て廃止し、クラウドストレージの「Box(ボックス)」へ完全移行したことです 。さらに、デスクトップアプリ(Box Drive)の利用すら廃止し、ブラウザのみでBoxを利用させるという徹底したブラウザ化を敢行しました

しかし、移行完了後にデータを計測すると、いくつかの課題が浮き彫りになりました

  • ファイルサーバー時代の200テラだったデータが、いつの間にか400テラに倍増
  • 社外コラボレーター(共有アカウント)をなぜか6,000人も招待している状態
  • 一部の先進的な部門では高度に使いこなされている一方、全く活用できていない部門との二極化

この「活用が進んでいない層」へのアプローチとして、柏崎氏が導入したのがデジタルアダプションツールである「Pendo(ペンド)」でした

Pendo(ペンド)によるBoxブラウザ版の可視化とガイドの自動化

マニュアルを読まない層を救う「画面上のリアルタイムガイド」

PendoをBoxのブラウザ画面に適用することで、画面の右側からポップアップで操作ガイドを差し込むことが可能になります 。新入社員向け、基本操作、応用操作、さらには管理者向け(部下と連絡を取りやすくする機能の案内)やアンケート(サーベイ)まで、ユーザーの属性に合わせて出し分けることができます

例えば、BoxではURLを使った共有が推奨されますが、マニュアルを読まないユーザーに対して「このURLで共有すれば簡単ですよ」と画面上でステップ・バイ・ステップのガイドを流すことができます 。また、「ファイルを編集する時はダウンロードしないで、ブラウザ上で直接編集してね」といった、よくある間違い(ミスオペレーション)を未然に防ぐためのアラートをピンポイントで表示することも可能です

「ダウンロード」や「画面狭い問題」……データが暴いたユーザーのリアルな行動

Pendoの最大の強みは、表向けのガイド表示だけでなく、裏側で「ユーザーがどのボタンを何回クリックしたか」「どの画面にどう遷移したか」という行動データをすべて捕捉できる点にあります 。300名程度の役員・一般管理職を対象に約60日間のデータを分析したところ、情シスが想像もしなかったエンドユーザーの実態が見えてきました

【ここにスクリーンショット「Pendoのダッシュボードに表示されるクリックランキングのデータ画面」を挿入】

  1. URLバーを認識していない問題: Boxは「URLを共有するだけでファイルを見せられる」のが利点ですが、多くのユーザーはブラウザ最上部にあるURLバー(アドレスバー)を認識していませんでした 。そのため、右側にある「ダウンロード」ボタンを押してローカルに落とし、わざわざメールにファイルを添付して送るという、旧来の非効率な運用を繰り返していたのです 。
  2. 画面狭い問題(サイドバーの存在): Boxには画面を広く使うためにサイドバーを閉じる小さな矢印ボタンがありますが、300人中120人しかそのボタンを使っていませんでした 。つまり、残りの200人近くは画面が狭くて見づらい状態のまま「Boxは使いづらい」とイライラしていたのです 。「ここを押せば画面が広くなりますよ」とワンポイントで教えるだけで、ユーザーからは「Boxってこんなに便利だったんだ!」と驚かれたと言います 。
  3. フォルダに戻れない問題: 資料を見た後、1つ上の階層(フォルダ)に戻るための「保存先フォルダのリンク(パンくずリスト)」を約100人が使っていませんでした 。ここを使わないユーザーがどうやって元のフォルダに戻っていたのか、データを見ることで初めて現場の「詰まりどころ」が可視化されました 。

わからなければGoogleで検索して解決できるのはITスキルのある人間の話であり、それを全エンドユーザーに期待しても一生無理です 。データに基づき、ニュースレター(誰も読まない)ではなく「画面上で直接気づかせる」ことの重要性が実証されました

ユーザーをセグメント化し、情シスのリソースを「おもてなし」から「イノベーション」へ

問い合わせの98%を占める「手順書読まない層」への自動化アプローチ

柏崎氏は、全ユーザーを均一に教育するのではなく、Pendoのデータを使ってユーザーをいくつかの層に「セグメント(分割)」する戦略を提唱します

多くの情シスやヘルプデスクが頭を悩ませている「手順書を読まない」「代理操作を要求してくる」といった問い合わせは、実は全体の「98%」を占めています 。 文部科学省の国際成人力調査によると、日本人は世界で最も言語理解力やロジカルシンキング能力が高い国とされていますが、逆算すると「マニュアルが読めない(読まない)」層が27%、「読めるが自分の業務への活かし方がわからない」層が36%必ず一定数存在します

この「手順書を読まない層」に対して、手取り足取りの「おもてなしサポート」を人間が提供し続けるのはリソースの無駄です 。Pendoを使って簡単なガイドをWeb上で繰り返し自動配信し、「ただ操作に慣れてもらう(自動おもてなし)」ことで、ヘルプデスクの人間の時間を空ける必要があります 。活用や効率化の高度なガイドは、この層に出しても疲弊するだけなので一切出しません

Boxを使いこなす「ボックスヒーロー」を見つけ出し、評価・給料に連動させる仕組み

一方で、情シスが本当に時間を割くべきなのは、少しのヒントや背中を押すだけで自走できる「使いこなせる社員」のエリアです

Pendoのデータから、Boxの高度な機能を駆使しているユーザー(=Boxヒーロー)をシステム的に見つけ出します 。情シス側からプロアクティブ(能動的)に彼らへアプローチし、「どんな使い方をしていますか?」「もっとこうしたいという要望はありますか?」と活用の相談やサポートを行います 。

さらに東急不動産では、この「Boxヒーロー」に値する人たちを社内で公式に表彰し、自身の業績評価(MBOなど)にプラスアルファとして追加できる仕組みを社長と合意して進めています 。「ITを使いこなせば業績評価が上がり、シンプルに給料が上がりやすくなる環境」を作ることで、社内のデジタル変革(DX)をボトムアップで加速させるのが狙いです

遠隔操作の原則禁止と「本当のデジタル化」の定義

ヘルプデスクを電話地獄から解放。キャッシュクリアでの遠隔操作は絶対NG

ユーザーの自立を促すため、同社ではヘルプデスクの対応ルールも厳格に定めています。問い合わせに対しては、基本としてServiceNow上の「ナレッジ(FAQ)」を一発送り返す運用を徹底しています

さらに、「ヘルプデスクは遠隔操作(リモートデスクトップ)を原則してはならない」という強い指示を出しています 。ブラウザのキャッシュクリア程度の内容で、親切心から遠隔操作で代わりにポチポチと直してあげるのは「神対応」ではなく、ユーザーから学ぶ機会を奪う「悪手」です 。子供が漢字がわからないと言ったときに、親が代わりにノートに書いてあげるのと同じで、それでは一生覚えるはずがありません

「電話も全廃しました。パソコンが完全に物理的に壊れたとき以外は、電話は使えません。これによってヘルプデスクのメンバーは、あの鳴り止まない『電話の地獄』からやっと逃れられました」

ニッチもサッチもいかなくなった場合を除き、人間によるおもてなしを徹底的に排除したことで、逆にヘルプデスクの労働環境と品質が一本化されるという成果に繋がっています

PDF化はデジタル化ではない。データに基づき「詰まり」を是正する

柏崎氏は、学校教育のデジタル化を例に挙げ、「本当のデジタル化」の定義を次のように説明します

  • ただのIT化: 教科書をPDFにしてタブレットに配っただけ 。eラーニングの動画を見せているだけで、効果が見えない状態 。
  • 本当のデジタル化: タブレット上でテストを受けさせることで、「誰がどこの問題で何分間詰まったか」のデータが裏で全て取れる状態 。「数学が苦手だと思っていた子が、実は国語の読解力が弱くて文章題を間違えていた」という本質的な原因(詰まりどころ)をデータから見つけ出し、正しい対策をサジェスチョンできて初めて、デジタル化と言える 。

情シスの教育やツール展開も全く同じです 。Pendoのようなアダプションツールを使い、ユーザーの行動をデータとして根拠(エビデンス)を持ち、どこで躓いているかを検知して画面上で是正していくことこそが、情シスにおける本質的なデジタル化(DX)です

まとめ:情シスは「おもてなし」の楽さに逃げず、覚悟を持って変革せよ

最後に、柏崎氏はヘルプデスクや情シスのマインドセットについて、非常に本質的なメッセージで締めくくりました。

「正直に言って、ユーザーの手取り足取り代わりに操作してあげる『おもてなしサポート』をダラダラ続けている方が、IT部門としては楽なんです。遠隔操作をしてその場を終わらせて、『うちの社員はITリテラシーが低くて困るよね』と裏で愚痴を言っている方が、精神的には楽です。ですが、それでは会社に何も新しい価値を生み出しません」

おもてなしの楽さに逃げず、手順書の自動化によって時間をこじ開け、社内の「使いこなせる2%のヒーロー」たちと共にビジネスを強くしていく。そのためには、情シス自身がルールを変える「覚悟」を持つ必要があります

ヘルプデスクの長期経験者を、年数が長いからという理由だけで無理にPendoのデータ分析やPM(プロジェクトマネジメント)の役割へコンバートするのは、適性の観点から絶対に避けるべきです(現場のやる気が削がれます) 。データという強力な武器を基に、自社の組織風土を本気で変えたいという「諦めの悪い情シスリーダー」は、ぜひ東急不動産の「おもてなし全廃・データハブ構築」のアプローチを取り入れてみてはいかがでしょうか

動画インデックス

・東急不動産HD 柏崎氏プレゼンテーション
 デジタルアダプションがある未来像  

 - Boxの導入と使い方【00:03:12】
 - 情シスが気づくべきはBoxヒーロー(使いこなせる社員)を探そう【00:06:48】
 - ガイドの提供はIT活用ができる人とできない人で分けるのがベスト!【00:08:47】
 - 「Boxは使いづらい」を文字通り受けとってはダメ【00:11:43】
 - 遠隔操作おもてなしITサポートこのままでいい?【00:15:35】
 - この状況でどうしたらIT教育をデジタル化できるか?【00:18:00】
 - IT教育のデジタル化の定義とは【00:19:59】
 - Pendoデータ分析で気づいた情シスサポートの弱点【00:21:28】
 - Pendoの画面で見るBoxの操作状況【00:24:20】
 - デジタルアダプションに取り組む前のチェックリスト【00:28:19】
 - 情シスがデジタルアダプションを進めるための覚悟とは【00:28:58】

登壇者プロフィール

株式会東急不動産ホールディングス グループ

DX推進部 ITサービス企画グループ 主幹

柏崎正彦氏

ITベンチャーにて、IBM AS/400海外製ソフトウェアプリセールスと社内情シスを兼務後、EMCジャパンの情シスにて、日本拠点のITインフラ・ネットワーク・仮想化、ServiceNow展開を7年間担当。現在、東急不動産ホールディングス、東急不動産、東急コミュニティーの情シスを兼務。東急不動産ホールディングス全体へのServiceNowの企画・展開、東急コミュニティーの全ファイルサーバー170台/200TB Box移行などSaaS展開、BPRに従事。

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